香水ときどき紅茶ブログ

10年以上の紅茶マニアが香水にもハマりました。マニアックな記事が多いです

なぜ紅茶系・お茶系香水はお茶の香りがしないのか

こんにちは香りマニアのみみはなこと、あかりです。

 

あらゆる方が好きな紅茶系の香水やウーロン茶の香水、緑茶の香水など、さまざまなお茶系香水は日本を含めた世界中に存在しています。

名香を生み出した天才的調香師でもお茶系香水に携わるなど、世界的な市場で大きな需要があることも事実です。

 

他方、緑茶から紅茶まで様々なお茶系香水を試してきましたが、10年以上も紅茶類を飲んでいるとお茶系香水からはお茶そのものの香りは、正確には感じ取れないのが本音です。

 

私もGreen Teaという日本の蒸した緑茶をモチーフにフレグランスを製作しましたが、浅蒸緑茶の「雰囲気」をフレグランスに閉じ込めたまでだと自覚しています。

 

世に出回るお茶系香水がなぜ実物のお茶の香りと多かれ少なかれかけ離れているか考察していきます。

 

全ての茶類に共通していることは、熱湯で淹れて茶葉を蒸らした後の90度ほどの香り立ちは80度に下がれば消えてしまうものがあり、それが70度に下がればぐっと消えるものもあります。

70度くらいの低温で淹れる緑茶でさえも50度を下回ると香りはかなり減り、豆っぽい風味が残ります。

 

物理的に70度で香る物質を香水やフレグランス類の20度前後の状態で香らせるのも厳しいかと思われます。

ガスクロマトグラフィー分析という香気成分を分析する前処理の段階で、ヘッドスペースでの香気成分を抽出して分析した論文を参考に考えていきます。

この場合、ヘッドスペースに知りたい香りを気体にして、どんな成分があるのかを分析できます。

お茶の場合は熱湯で抽出した茶液を25度の室温で解析します。

また、茶液の浸出液をガスクロマトグラフィー分析にも掛けました。

 

その結果、どの香気成分がどの程度含まれているかの分析ができましたが、約300種ほどある全ての香気成分の数値までは特定できず、お茶の香りの特徴的な成分が判明したまででした。

 

特徴的な成分はリナロール、βイオノン、ゲラニオール、シスジャスモン、フェニルアセトアルデヒドクマリンバニリン、リーフアルコール、インドールなどです。

 

なので、緑茶や紅茶系香水を作るとなると、この特徴的な成分を各社の処方に基づいて調合し、香水として保留性を高める上で必須のムスク類を加え、ファーストインプレッションを決める柑橘をトップに入れ、フローラルをミドルに置き、ウッド系をベースに配置する典型的なお茶系香水が出来上がるのだと思います。

 

紅茶、たとえばダージリンは春摘み、夏摘み、秋摘みによっても香気が大きく異なり、同じ茶園の違うロットでも香りが異なることがよくあります。春摘みで淹れたてのお花のような香りや夏摘みのナチュラルでフルーティな香りや秋摘みのほっこりとした糖蜜のような香りを含めて、湯液の温度が下がったときのダージリン紅茶の香りまでを香水に閉じ込めるのは極めて難しいでしょう。

 

他の紅茶、スリランカのウバはサリチル酸メチルの香りが特徴的で、昨今この香りをあえて着けて、ノンフレーバーのウバの紅茶と茶園自らが販売しているところもあるため、日本のバイヤーですらもウバの着香を見抜くのが困難となっています。

 

一般的によく知られている紅茶の香りといえばインドのニルギリかアッサム、スリランカのディンブラ辺りかと思いますが、それらの紅茶は味がしっかりしており、ダージリンのような華やかで誰もが気付きやすい強い芳香ではありません。

 

それを踏まえていざ、紅茶の香水を作るとなるとシンプルに事が運ばないでしょう。一般的な紅茶は強くて特徴的な香りでは然程ないからです。となると、他の一般的な紅茶である「アールグレイ」の香りで香水を出した方が売れるのではないかと考察するのがごく自然なことだと思います。

アールグレイというお茶は、ベルガモットの香りを着けたフレーバーティーで世界的に多く飲まれています。

よく紅茶キャンディやゼリーなどに使われているフレーバーの方が紅茶そのものに近いといった声も耳にします。

しかし、これも紅茶の香りを特徴付ける香りを濃縮したようで、紅茶そのものとは異なります。

 

ウーロン茶では、例えば広東省で作られる鳳凰単欉と呼ばれるお茶は、桃のような香りもあれば、蜜のような香り、クチナシの香り、妖艶なフローラルの香りなど多岐に渡ります。これらの香りを出すには非常に繊細に淹れる必要があり、2,3煎目の4,5秒で温度が下がって香りが消えてしまうほどデリケートなものです。

 

もし鳳凰単欉茶の香水を作るとなり、お茶はクチナシのような香りがあるからクチナシのアコードを組みこんでも、香水を噴霧したときには淹れたての鳳凰単欉の香りには決してならないでしょう。

 

このブログでお茶系香水を紹介していますが、どれもいろいろな制約がある香水という世界の中での表現力または再現力の巧みさに感心した香水のみを紹介しています。

 

お茶にはお茶でしか味わえない香りがあり、香水には香水でしか楽しめない香りがあり、完全再現ができないからこそ奥が深くて我々を飽きさせないのだと思いました。

 

本日はこのあたりで

 

 

  • 参考文献

https://www.jstage.jst.go.jp/article/cha/2013/116/2013_116_15/_pdf

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jao/47/3/47_207/_pdf

 

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